既存のブラウンフィールド施設を自動化のために改修することは、戦略面でもコスト面でも最良の選択です。ブラウンフィールドとグリーンフィールドの自動化の違いや、自動化のための改修に伴う課題について解説します。
倉庫業務を拡大するには、グリーンフィールドに新施設を建設することが最適なように思えますが、既存のブラウンフィールド施設の改修はコスト面でも戦略面でも優れた選択肢です。この記事では、ブラウンフィールド施設の自動化とグリーンフィールド施設の自動化の主な違いや、ブラウンフィールドの自動化に伴う課題、移転ではなく改修を通じて既存のスペースをアップグレードすることの価値について解説します。
「ブラウンフィールド」とは既存の工業用地または商業用地を指します。たいてい、過去に開発された古い建物やインフラが残り、過去の環境汚染などの問題が存在します。こうした施設の特徴は、既存の構造物やインフラ、汚染のおそれのある土地、その他の制約があることで、新たな工業用地や商業用地として再利用、再開発、拡張する前に評価と修復が必要です。
米国のブラウンフィールドプロジェクトの一例として、ニューヨークのハイラインパークがあります。ハイラインパークは、何十年も放置されていた貨物鉄道の高架線遺構の上に建設された公共の公園です。路線は廃線となり、マンハッタンのウェストサイドで雑草だらけの場所となっていました。
地域社会と市当局は、この構造物を取り壊すのではなく、使われなくなった鉄道インフラを革新的な公共空間として再利用するため、ブラウンフィールド再開発プロジェクトを開始しました。約2.4キロに及ぶハイラインパークの見どころは、庭園、遊歩道、休憩エリア、アート作品、街を見渡せる素晴らしい眺望などです。
このプロジェクトでは、荒廃した敷地を浄化する大規模な修復作業が行われ、レクリエーション空間、緑のオアシス、そして地域活性化の触媒として、用地は地域に愛される公園へと生まれ変わりました。ハイラインパークの成功からわかるのは、ブラウンフィールドを再開発することで、環境問題に取り組みながら、放置された地域を価値ある公共資産へと刷新できるという事実です。
グリーンフィールドプロジェクトとは、未使用地や未開発地に建築される新しい建設施設や開発事例を指します。工業用地、商業用地、住宅用地として利用されてきたブラウンフィールドとは異なり、グリーンフィールド施設は、既存のインフラや開発のない空き地や農地に建設されます。グリーンフィールドプロジェクトでは、まったく新しい構造物や施設をゼロから建設するので、既存の建物や環境問題による制約や制限を受けることなく、斬新な設計やレイアウトが可能です。こうした施設用地は、工業用、商業用、住宅用として以前に開発・利用されたことがないので、「グリーン」つまり「新規」ということになります。
大規模なグリーンフィールドプロジェクトの有名な事例として、Tesla社のギガファクトリー建設があります。このギガファクトリーは、Tesla社が電気自動車用バッテリー、エネルギー貯蔵製品、その他の再生可能エネルギー部品の生産用に設立した大規模施設です。米国ネバダ州に位置するギガファクトリーは、グリーンフィールドプロジェクトの代表例として知られています。このプロジェクトでは、未開発の土地や未使用の土地に大規模な施設を建設しました。
Tesla社の車両とエネルギー貯蔵システムに使用するリチウムイオンバッテリーを製造する目的から、この工場は最先端技術と持続可能な慣行を導入し、ゼロから建設されました。プロジェクトはその規模、革新的な設計、環境に優しい製造プロセスへの取り組みにより、大規模なグリーンフィールド開発の模範になるとともに、バッテリー生産に革命を起こすだけでなく、自動車およびエネルギー分野で持続可能性に優れた製造方法の新たな基準を確立することも目指しています。
マテリアルハンドリングやサプライチェーンの領域では、「ブラウンフィールド」や「レトロフィット(改修)」という用語がよくセットで使われます。通常、汚染状況に対処する本来のブラウンフィールド事業を扱うのは、建築、土木、建設といった業種の企業ですが、改修プロジェクトに従事するのは主にシステム統合の技術者たちです。
改修とは古い建物を新しい用途のために再利用することです。倉庫業の事例では、古くなった仕分け・コンベヤーシステムをさらにスピードと効率性に優れたものに置き換えることにあたります。
Benetton社の事例は、AutoStoreによる倉庫の改修事例の1つです。世界的なファッションブランドである同社は、eコマースを活用して顧客に製品を販売しています。しかし、イタリアにあるフルフィルメントセンターでは、オンライン顧客が期待するサービスやスピード、時間厳守、確実性を実現するために新しい物流手法を探していました。
同社は新たな施設を建設するのではなく、AutoStoreを施設に組み込む形での改修を決定しました。このカスタムメイドな改修により、Benetton社のビジネスモデルや運営戦略に最適なシステムが実現しました。持続可能性という目標にも合うAutoStoreは、Benetton社の既存の構造物に適合し、新規の建設による環境への負荷を軽減できました。拡張性に優れたAutoStoreは、将来のビジネストレンドやニーズにも対応でき、成長と拡大を目指したサステナブルなソリューションを提供できました。
サプライチェーン管理の分野でブラウンフィールド倉庫について議論する場合、たいていは効率性の向上、保管容量の最適化、自動化の導入、サプライチェーン需要の変化への対応など、既存施設のアップグレードや改修の戦略が焦点となります。新たな土地に建設されたグリーンフィールド倉庫と異なり、ブラウンフィールド倉庫では、現代的なサプライチェーンの習慣、技術の進歩、運用の要件に合わせるための評価や将来的な見直しが必要です。企業によっては、その土地の以前の用途に由来する制約に対処しながら、物流の改善、在庫管理の合理化、自動化システムの導入などを目的に、ブラウンフィールド倉庫の改修や再構成を選択することも考えられます。
改修は大変な作業に思えるかもしれませんが、多くの成功事例があります。新しい場所に移転しない場合にはかなりのコストが削減できます。ゼロから新拠点を建設する場合、新しく賃貸契約を結び、業務を二重に行い、管理チームを移転させ、スタッフを新規に雇用する場合もあるでしょう。グリーンフィールド施設への移行中にはサービスの中断が発生し、在庫のダウンタイムにつながる可能性があります。一方、改修であればスムーズな移行が可能であり、サービスの中断も最小限に抑えることができます。
ブラウンフィールド倉庫への自動化導入は、全体的な効率と生産性を向上させながら、廃棄物、エネルギー使用量、環境への負荷を最小限に抑えることで、業務の持続可能性を向上させます。ブラウンフィールド倉庫への自動化導入は、次のような点で持続可能性と環境問題に取り組むことができます。
ブラウンフィールドの自動化を検討する際、いくつかの課題が浮上します。
AutoStoreのようなモジュール式自動化技術の強みの1つは、手動プロセスを継続しながら自動化を段階的に導入できる点です。このような柔軟性のおかげで、影響が大きく在庫回転率の低い製品から導入し、固有のニーズに応じて他の分野に自動化を広げていくことができます。システムの移行期間中にブラウンフィールド施設の業務を最適化する上で、このような適応性は極めて貴重です。
実際、1,250を超えるAutoStoreシステムの約65%は、自動化専用に建設された施設ではなく、改修された施設に設置されています。これは、モジュール式システムの柔軟性によるもので、どのような倉庫レイアウトにも適合し、どのようなハードウェア技術やソフトウェア技術とも統合でき、簡単に拡張できるように設計されているためです。
Best Buy社やPUMA社といった企業は、ブラウンフィールド施設へのAutoStoreの導入に成功した有名ブランドの一例であり、コストの削減、空間の最適化、既存システムとのシームレスな統合を実現しています。
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通常、AutoStoreの設置要件は、床荷重や火災安全要件が厳しい同種の倉庫自動化システムよりも緩やかです。グリッドは密閉された保管エリアなので、一部のスプリンクラーの設置を見直せば要件を満たします。ただし、床面は平らで水平なコンクリート製であることが不可欠です。
AutoStoreの仕様に精通した専門のサブコンサルタントが床面の調査を行い、倉庫の床面を完全に水平にするために必要な作業範囲を判断します。一般的な工程では、研磨し、パッチを当て、約2.4センチの薄い上層をコンクリート板に重ねます。新しいコンクリート板の敷設や、交換が必要な場合もわずかながらあります。床を平らにするコストは施設によって異なりますが、他社の自動化技術のコストに比べれば高くありません。ブラウンフィールド施設の自動化を求める多くの企業にとって、AutoStoreは魅力的な選択肢であると言えます。
産業用床材専門の世界的企業、CoGri社はAS/RS(自動倉庫システム)仕様に精通しており、同社が作業を行ったAutoStoreの全床面積は、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、アジア、およびオーストラリアを含む世界全体で50万平方メートルを超えています。
同社の調査工程は、特許を取得したRobotics Profileographというレーザーガイド付き測定器を使って、床面の均一性をチェックすることから始まります。Profileographは基本的に床に沿って転がりながら移動し、AutoStoreの要件を直接調査する機器です。調査は想定床面積上で、1メートル間隔を取って縦横に実施されます。Profileographによる1回の走行で2本のラインを調査し、1.2メートルと2.4メートル、2とおりの幅で平坦度と水平度に関するデータを収集します。
Profileographは床の平坦度の6つの特性を測定します。追加アタッチメントを使用すれば、TR34 DM、EN 15620:2008*、DIN 15185、VDMA、FEM、ACI F minにおける表面均一性仕様で測定できます。
形状が極度に悪いエリアはそれほど一般的ではありません。時間もコストもかかる床の研磨より、表面施工である上塗りが推奨されます。
「たいていの場合は、現場作業の中断を最小限に抑え、プロジェクトプログラムに支障をきたすことなく、床を研磨して要件を満たす状態にできます」と、CoGri社の子会社であるFace Consultants, Ltd.社のコンサルタント、James Dare氏は言及しています。
「コストは床の状態やAutoStoreの床面積、修復方法によって異なります。プロジェクトによっては、少人数のチームで1週間程度の作業が必要な場合もあれば、大規模なチームで何週間かかる場合もあります」
CoGri社では歩行型研磨機を使用しており、CoGriグループの調査専門員が常に接地部分をチェックし、規制順守を検証しながら、修復を行います。費用面から「研磨不可能」と判断された床には通常、CoGri Fastfloor ITなど、スクリードを使って上塗りが施されます。
アッシュクリート(石炭灰コンクリート)やシリカベースの混和材など、環境に優しいコンクリートの市場は大きく発展していますが、工業用床は複数の特性を備えている必要があり、表面の均一性に関する規制を順守できるだけの扱いやすさが求められます。床材の二酸化炭素排出量を削減するには、「最初に正しく行う」ことが最も良い方法です。スラブの設計条件が過剰設計にならないようにし、システムの荷重を適切に支えられるように留意します。そうすることで、追加の修復や交換を行わずに済みます。適切な条件であれば、PFA(微粉燃焼灰、別名「フライアッシュ」)やGGBS(高炉水砕スラグ)をセメントの代替材として使用し、二酸化炭素排出量を削減することができます。前者は石炭燃焼の副産物であり、後者は鉄鋼生産の副産物です。
結論としては、成長を理由に既存の場所を放棄しないことです。既存のままでは、倉庫が持つ潜在力の50%も利用できていない可能性が高いからです。ブラウンフィールド施設に倉庫自動化を導入することで、空間を最大限に活用できます。ブラウンフィールドの活用はコスト効率が高く、戦略にかなっており、新しいグリーンフィールド施設の建設に代わる選択肢となります。ブラウンフィールドの自動化における課題は解決できるものであり、移転ではなく既存の空間を最適化するという選択肢には価値があります。AutoStoreのようなモジュール式の自動化技術を活用し、専門的なパートナーと協力することで、自動倉庫業務へのスムーズな移行を実現し、効率性と競争力を高めることができます。
自動化は、最新技術によって業務合理化・精度向上・全体的な効率の最適化を実現し、既存のブラウンフィールド倉庫に革命をもたらす可能性があります。またロボット、AI駆動システム、IoTデバイス、高度なソフトウェアソリューションの実装も可能になります。こうした最新技術によって在庫管理、ピッキング、梱包、輸送などの日常業務を自動化することで、処理能力と生産性を向上させながら、手作業やエラーを減らし、運用コストを削減できます。
ブラウンフィールド倉庫のアップグレードに適した自動化技術例は以下です。
eコマース、小売、製造、物流、流通などの業界では、自動化によって最適化できる反復的な作業が大量に存在するので、古い倉庫施設の自動化によって大きなメリットを得られます。ただし、これらの業界に限らず、倉庫業務に携わる業界であれば、自動化によって効率の改善やコストの削減を達成できます。
既存のインフラについての考慮事項として、現在のシステムと新技術との互換性の評価、自動化機器を収容するために構造的な変更が必要かどうかの判断、電力およびネットワーク要件の評価、安全基準および安全規制の確実な順守などが挙げられます。
作業範囲は場所によって異なりますが、通常は床の平準化が必要です。最も一般的な工程としては、研磨、パッチ、コンクリートへの薄塗材の塗布などがあります。新しい床材を上塗りすることで、表面を数センチ上げる場合もまれにあります。コストは変動しますが、1平方メートルあたり数千円が一般的です。
1,250を超えるAutoStoreシステムの約65%は、自動化専用に建設された施設にではなく、改修された施設に設置されています。これはモジュール式システムの柔軟性によるものであり、モジュール式システムはあらゆる倉庫レイアウトに適合し、ほとんどのハードウェアやソフトウェア技術と統合可能で、拡張しやすいように設計されています。システムのモジュール性によって、倉庫を稼働させながら、段階的に自動化を進めることができます。システムの移行期間中にブラウンフィールド施設の業務を最適化する上で、このような適応性は極めて貴重です。
「実際、1,250を超えるAutoStoreシステムの約65%は、自動化専用に建設された施設ではなく、改修された施設に設置されています。これは間違いなく、どのような倉庫レイアウトにも適合し、どのようなハードウェア技術やソフトウェア技術とも統合でき、簡単に拡張できるように設計されたモジュール式システムの柔軟性によるものです。」